東京都 K.Mさん 30代女性 2019/04/29 7時〜8時体験
「ゴールデンウイーク、何しよう」と考えたとき、真っ先に思いついたのがネビラキのカヌー体験だった。主催者のひとり、瀬川瑛子さんが長年の友人で、彼女が西和賀で撮った風景写真に魅了され、いつか行きたいと思っていた。それに、東京で生まれ育った子どもたちに、都会では味わえない体験をそっと手渡したかった。
4月下旬、西和賀の早朝は吐く息がまだ白い。廻戸川のほとりで主催者の瀬川然さん・瑛子さん夫妻が迎えてくれた。子どもたちは初めてのライフジャケットにどきどき。木製のカナディアンカヌーに乗って出発!
小さい頃からカヌーに乗っていた然さんのオールさばきは抜群の安定感で、子どもたちもリラックス。樹々を映す鏡のような川面は、陽の光が降り注ぐとエメラルドグリーンに染まる。語彙力のない私は「うわぁ~きれい!」を何度連発しただろう。エメラルドグリーンの彩色は、山の雪解け水が流れこむこの季節にしか出会えないそう。
丁寧なガイドもカヌー体験の魅力だ。岸辺の草花、芽吹いたばかりの樹々、澄んだ声の野鳥・・・それらの名前や生態、エピソードまで然さんが教えてくれる。ガイドがなければ「なんか鳥が鳴いてるな~」で終わっていたし、ひっそりと岩間に咲くショウジョウバカマの花にも出会えなかった。今まで気づかなかった世界へと続く扉が、静かに開いていくようだった。
小学生の息子が静かなので顔をのぞくと、目をキラキラさせて、360度に広がる風景に浸っていた。鳥の声が聴こえると「あ、なんか聴こえた!」と全身をぴくんとさせて、カヌーが水没林の間をくぐるたびに「来た!」と頭上をかすめる枝に手をのばし、川に突っこんだ手を「冷たっ!」とひっこめる。五感で感じる時間って、豊かだ。
岸にあがったとき、「あ、時間の流れが変わった」と感じた。カヌーの上では別の時間が流れていたのだった。時計が刻む60分ではなくて、長い年月のなかでその土地の自然が太古から育んできた悠久の時。そこに身を置いたことで、私たちの身体にもいつか流れていた、忘れかけていた時の流れが戻ってきたのかもしれない。
まぶしい朝の光を浴びて、瑛子さんが用意してくれたホットサンドとコーヒーをいただく。「おいしい!」と夢中でほおばる子どもたち。この景色を眺めながらの一皿は、どんな高級ホテルの朝食もかなわない。
1日の終わりに何度も「楽しかった~!」と飛び跳ねる子どもたちを見ていたら、ある本を思い出した。米国の海洋学者で『沈黙の春』で知られるレイチェル・カーソン。自然を愛した彼女が亡くなる直前に書いた『ザ・センス・オブ・ワンダー』だ。
“知るということは、感じることの半分も重要ではないのです。(中略)子どもたちが出会う一つ一つの事実が、やがて知識や知恵を生み出す種だとしたら、さまざまな感情や豊かな感受性は、この種を育む肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです”
西和賀で耕した土に、これから先、子どもたちはどんな種を蒔いて、どんな花を咲かせていくのだろう。かけがえのない体験を贈ってくださった瀬川家のみなさん、ありがとうございました! (ここまで1277文字/オーバーしちゃった!ごめん!)
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